漬け物を漬けるに、野菜と塩と重石


後は温度管理のために冷蔵庫を使うくらいでしょうか。道具はほとんど与えられておりません。

ですから原材料の有機野菜は各地の篤農家の人たちと契約をして作ってもらっています。

 

旬から見ると、胡瓜や茄子で70~80日、白菜でもせいぜい150日くらいですから、需要と供給のバランスを保ちながら、なおかつ季節に採れる野菜だけで一年間を通して商品作りをしていくには、それぞれの産地を探し、かなりの努力をしています。

漬け物作りへの想い


「変わり行く努力を怠らない」

「味にこだわり」と申しますが、煎じ詰めれば食べ物は、見た目で食卓を賑わし、味で喜びを感じていただき、「薬食同源」とも申しますが、最後に結果として健康の一助になればと考えております。

 

創業以来、口伝で伝わる漬物作りの奥義は「どばっと塩、どさっと重石、しっかりあく抜き、後は適当」…今と違い昔は塩は貴重なものだったので惜しまずたっぷり使え、歩留まりを気にせず重石をしっかりかけて歯ごたえを出せ、野菜の灰汁や毒素は今よりきつかったのでしっかりと抜け、そして後は適当、これは自分の主義主張に凝り固まらず、その時々の流行やお客様の嗜好に合わせて味を定めよとの教えであり、創意工夫、商品の見直しを常に怠るなという意もこめられているのでしょう。

 

祖先から受け継いだ形のあるものは鉋(かんな)に重石のみ、道具はほとんど与えられておらず、ひたすら知恵を絞り、自然の摂理に逆らうことなく、基本に忠実に作ることが大切だと教えられ十代目を引き継ぎました。

 

それを受け商品に関して常に改良を施し、例えば奈良漬などは漬け床の配合割合を変え、漬け変え回数を増やし、真っ黒でものすごく塩辛かったと伝わる創業時の奈良漬とは比べようがないほど、今の奈良漬のほうが洗練され美味しくなっているはずだと考えております。

「野菜の声を聞いて作るお漬物」

原料野菜は品種、産地を特に固定せず、常に各地にアンテナを張り、ひたすら「野菜らしさ」と「鮮度」を求め、製造方針としては野菜の持ち味を最大限引き出すんだ!との想いで作っております。

 

元々野菜は私たちに加工され食べられるために生まれてきたのではなく、種の保存のために土中に根を張って水を吸い、日差しを浴びるために葉を拡げ、次世代のために実を成します。

 

その野菜の生命をいただくのだからと、野菜を第一に考えて作っているうちに、最近お客さんからよく聞く声が「びっくりするくらい野菜の味がするお漬物」

 

漬物業に従事して20年、この評価をいただいたときほど嬉しかったことはありません。

「自分の一番大事な人に食べてもらいたい」

生業として長い間漬物作りをしていますと、やはりマンネリに陥ったり、出来上がりに悩んだり、もっと楽できるぞ、手を抜けという悪の誘惑に負けそうになったり、と様々な心の迷いを生じます。

 

その解決法として判断に迷った際は「作り手にとって一番大事な人を思い浮かべ、その人に食べさせてあげたい」と考えながら選択していこうと決めています。

 

人によって大事な人は恋人であったり、子供であったり母親であったりと様々でしょうが、愛する人に食べさせてあげたいという強い想いは必ず商品に届きます。

 

気の抜けたビールほど不味いものはないですが、まさしく気の入っていない漬物は美味しく漬かりあがりません。

 

私どものお漬物をお買い求めいただく全てのお客様に、出来る限りの愛情を込めて、お届けさせて頂きます。

 

 

総本家 近清 十代目店主